ブランド・リレーションシップ

現代社会を見渡すと、ほとんどのものにブランド(銘柄)が付与されていることに気づきます。企業はブランドを主軸にしてビジネスを行い、私たちもブランドを手がかりにして消費生活を営んでいます。

ブランドに囲まれて生活をしていると「お気に入りのブランド」が生まれてきます。ポテトチップスならば「湖池屋」が好き、メイクアップ化粧品ならば「ディオール」が好みといった具合です。

そこで人々に「お気に入りの理由を教えてください」とたずねると、さまざまな答えが返ってきます。「味が良いから」「発色が良いから」という機能的な理由もあれば、「誠実な印象があるから」「洗練された印象があるから」という感覚的な理由もあります。お気に入りの理由は実にさまざまです。

そうした中で、ときおり見かけるのが「たくさんの思い出が詰まっているから」であるとか、「自分らしさを実感させてくれるから」という答えです。なかには、「友だちのような存在だから」と答える人もいます。いずれも「ブランドそのもの」でなく「ブランドと私」について語っているのが特徴的です。

こうした人々はブランドとの間に何らかの「結びつき」を感じています。いいかえれば、ブランドに対して愛着を持ったり、自分の一部のように感じたりしています。これが「ブランド・リレーションシップ」です。

ブランド・リレーションシップの効果

ブランド・リレーションシップが形成されると、さまざまな効果が生じます。

購買効果

ブランド・リレーションシップは、購買行動に大きな影響を与えます。

・強いロイヤルティ

ブランド・リレーションシップが形成されると、非常に強いロイヤルティが生まれます。単なる反復や継続購買だけでなく、そのブランドが手に入らなければ、他のブランドを買わずに待つといった、頑健な継続購買傾向が生じます。

・価格許容性

価格許容性が強まり、より高い価格でも購入するようになります。WTP(willingness to ay: 支払意思額)が高まります。

・アップグレード

ブランド・リレーションシップには製品のアップグレードを促す効果もあります。ブランドとの間に絆を感じているほど、アップグレードされた製品を手に入れたい意向が強まります。

購買以外の効果

強いロイヤルティ、価格許容性、アップグレードが「購買の効果」だとすると、ブランド・リレーションシップには「購買以外の効果」も見られます。

・肯定的なクチコミ

ブランド・リレーションシップが形成されると、他の人にそのブランドを積極的に推奨するようになります。あるいは、肯定的なクチコミを発信する傾向が強まります。

・否定的な情報に対する抵抗

ブランド・リレーションシップが形成されると、否定的な情報に対して抵抗を見せるようになります。
まず、そのブランドに対する否定的なクチコミを無視したり、否定的な情報を疑う傾向が強まります。このような否定的な情報に動じない効果は「免疫効果」といえます。
またブランドに対する悪意ある書き込みを見つけると、自発的に反論したり、炎上したときには進んで火消し役を演じてくれることもあります。これは「ガーディアン効果(自警団効果)」といえます。

・ブランドに対するサポート

ブランドに対するサポート(支援)も見逃せない効果です。サポートというのは自分自身にとって直接利益にならないものの、そのブランドにとっては有益となる行動のことです。典型的なのは、既存製品を改良したり、新製品を開発したりするためのアイデアの提供です。ブランド・リレーションシップが形成されると、そのブランドを『助けたい』、あるいはブランドの『役に立ちたい』という気持ちが生まれます。これがブランドに対する支援的行動として表れます。

購買効果購買以外の効果
強いロイヤルティ肯定的なクチコミ
価格許容性否定的な情報に対する抵抗
(免疫効果・ガーディアン効果)
アップグレードブランドに対するサポート

プロパティーとパートナー

ブランド・リレーションシップにはいくつかの側面があります。

まずブランドは自分らしさを実感したり、表現したりするための小道具となります。好ましい自己を創り出したり、現実の自己を確認したり、あるいはそうしたイメージを表現するための「小道具」として機能します。

また毎日の生活に溶け込んだブランドや思い出が詰まったブランドは、安心感をもたらしたり心の支えとなることもあります。ブランドは自分のことを理解してくれ、ときには心の支えになる「相棒」として機能することがあります。

英語で小道具のことを「props」(propertiesの略)ということから、前者のようなブランドは「プロパティー型ブランド」といえます。また後者のような相棒ブランドは「パートナー型ブランド」といえます。ブランドは「自分にとってどのような存在か」によって、プロパティー(小道具)となることもあれば、パートナー(相棒)となることもあるのです。

ブランド・リレーションシップにプロパティー型(小道具型)とパートナー型(相棒型)があることは、それらを「絆」とひとくくりにしない方が良いことを意味しています。企業の立場から考えると、異なるタイプの結びつきには、それぞれに適した戦略があるはずです。

ブランド・リレーションシップについて理解を深める

ブランド・リレーションシップは、今日のブランド・マネジメントに欠かすことのできない、大切な考え方です。しかし残念ながら、一般的なマーケティングのテキストやビジネス書には、ほとんど説明がありません。

ブランド・リレーションシップについて理解を深めたい方は、『ブランド・リレーションシップ』をお読みください。ブランド・リレーションシップの概念、測定方法、効果や形成要因、そしてマネジメントまで、深く説明しています。

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