私たちの消費生活は、少しずつですが、確実に変化しています。リキッド消費は、こうした消費生活の大きな変化を捉えたコンセプトです。
リキッド消費は、①その時々で欲しいものが変わる(短命性)、②わざわざ買わなくても、レンタルやシェアリングでよい(アクセス・ベース)、③物にこだわらず、むしろ経験を大切に思う(脱物質)という3つの要素によって特徴づけられます。
たとえばファスト・ファッションが浸透することで、私たちは洋服を気軽に選べるようになりました。しかしその結果、洋服に対して、以前よりも移り気になりました。またSNSで突如注目を浴びたり、「にわかファン」が一気に増える現象も珍しくなくなりました。流行や興味関心についても、いっそう気まぐれになったようです。
自動車を保有せずに、カーシェアリングを利用する人も増えました。シェアサイクルも、街でよく見かけるようになりました。旅行に行くときにスーツケースをレンタルする人も増えたようです。世の中全体を見渡すと、サブスクリプションが普及し、「所有せずに消費する」ことが浸透しつつあります。
何かを消費するときに、物に頼らなくなったことも忘れてはなりません。ストリーミング・サービスが普及し、CDを目にすることも少なくなりました。以前はポイントを貯めるときに、レジでカードを提示していましたが、いまではスマートフォンのアプリです。
このように現代の消費生活は、短命性、アクセス・ベース、脱物質という3つの特徴で捉えることができます。
リキッド・モダニティとリキッド消費
リキッド消費というコンセプトは、バウマン(Bauman)という社会学者が提示した「リキッド・モダニティ」という考え方に基づいています。バウマンは現代社会の特徴として、変化と不安定性が強調され、社会全体が流体的なものとなりつつあることを指摘しました。
リキッド消費は、この考え方を消費社会に援用するかたちで、バーディーとエカート(Bardhi and Eckhardt)によって提唱されました。
リキッド消費とソリッド消費
バーディーとエカートは、伝統的な消費スタイルを「ソリッド消費」と呼んでいます。ソリッド消費とは、永続的で、所有ベースで、物質形態の消費のことです。短命で、アクセス・ベースで、脱物質的なリキッド消費と対極です。

彼女らは現代の消費はリキッド消費とソリッド消費を両極とするスペクトラム(連続体)の一部として捉えられると指摘しています。かつてはソリッドのみだった消費は、今日ではソリッドからリキッドへと広がる、幅を持った現象へと変化しました。現代の消費環境にはソリッド消費も存在すれば、リキッド消費も存在します。
4つの消費
リキッド消費が広まることで、いろいろな消費行動が見られるようになりました。ここでは「4つの消費」としてまとめてみます。
軽く選ぶ消費
現代社会の傾向のひとつとして、物事に気軽にトライすることを肯定的に捉える価値観があるように思います。実際、YouTubeに代表される動画サイトをみると、「歌ってみた」「踊ってみた」など「〜してみた」という表現がよく見られます。こうした傾向は消費にもあてはまります。深く考えることなく、ひとまず買ってみること、つまり「軽く選ぶ消費」が目立ちます。
いろいろ楽しむ消費
リキッド消費が広まることで、「いろいろ楽しむ」傾向も強くなると考えられます。特定のブランドにこだわらず、多様な製品やサービスを試してみるわけです。私たちの生活を見渡しても、同じものを大量に購入して使い続けるのではなく、その時々の気分で、いろいろなものを「少しずつ」楽しむ消費スタイルが増えているように感じます。
ひと手間かけない消費
同じ結果なら、できるだけ手間を省きたいと思う気持ちが強くなりました。簡単なものや、手がかからないものが好まれるように、お店で製品を選ぶときも、毎日の生活を過ごすときも、手軽さが重視されます。よほど趣味性の高いものでない限り、手間を省き、成果だけを求める傾向が強くなりました。苦労や努力はできるだけ避けて、効率よく幸せを手に入れたいと思うようになりました。
持たざる消費
これはアクセス・ベース消費とほぼ同じ意味です。かつて消費と所有は深く結びつくものと考えられてきました。人々は対価を払って何かを自分のものとし、それを消費するというのが暗黙の仮定でした。しかしシェアリングやレンタルサービスなどが普及することで、所有せずに消費することが多くなりました。消費と所有が結びつかなくなり、かつては珍しかった所有を前提としない消費が増えてきました。
消費生活の大きな変化を捉えたコンセプト
リキッド消費は、消費生活の大きな変化を捉えたコンセプトです。現代の消費生活を理解する鍵となりますし、消費をめぐるさまざまな「なぜ」を理解する手がかりにもなります。
消費のリキッド化は、無視できない大きな流れです。おそらく私たちの消費生活は、かつてのようなソリッド消費だけの世界に戻ることはないでしょう。リキッド消費の浸透は、不可逆的な変化といえます。
ただしそれは、数ヶ月程度で生じる短期的な変化ではありません。数年、あるいは数十年という、長い期間をかけて、じわじわと生じる変化です。視野を広げ、冷静に観察することで初めて見えてくる変化です。
リキッド消費について理解を深める
リキッド消費は、現代に生きる私たちにとって、とても身近な現象です。ところがこれまで、リキッド消費について正しく説明した書籍はありませんでした。
リキッド消費について理解を深めたい方は、『リキッド消費とは何か』をお読みください。この本では概念的な説明だけでなく、定量的および定性的なデータを用いた分析もたくさん行っています。新書ですから、どなたにも気軽にお読みいただけるはずです。
