リレーションシップ・マーケティングとは、顧客との間に「リレーションシップ」(関係性)とよばれる、友好的で、持続的で、安定的な結びつきを構築することで、長期的に見て好ましい成果を実現しようとするマーケティングのことです。その名の通り「関係」を重視するマーケティングといえます。
取引と関係のマーケティング
マーケティングには「取引」を重視する考え方と「関係」を重視する考え方があります。取引を重視するマーケティングでは「いま売り切る」ことが重視されます。関係を重視するマーケティングでは「長く付き合う」ことが重視されます。
取引を重視するマーケティングでは、一つの顧客と長くつき合うことなく、比較的短期間で相手を変えていきます。その時々に応じて、最も大きな売上や利益が見込める顧客とつき合うので、瞬発的な成果が期待できます。その一方で、ロイヤル客(得意客)が育ちにくく、持続性や安定性に欠けるという弱点があります。
関係を重視するマーケティングでは、顧客を頻繁に変えることなく、特定の相手とじっくりつき合います。将来にわたり売上や利益の最大化が見込める顧客とつきあうので、持続的で安定的な成果が期待できます。ただし、顧客との間にしがらみが生じることもあります。
このように取引を重視するマーケティングには、短期志向、瞬発力重視、不安定的といった特徴があります。逆に関係を重視するマーケティングには、長期志向、持続性重視、しがらみといった特徴があります。
取引型マーケティング | 関係型マーケティング |
---|---|
いま売り切る | 長くつき合う |
取引を重視 | 関係を重視 |
短期志向 | 長期志向 |
瞬発力重視 | 持続性重視 |
安定性に欠ける | しがらみが生じる |
実際には、すべての顧客が毎回入れ替わることは稀ですし、顧客との関係が永遠に続くこともありません。つまり純粋な取引型マーケティングや、純粋な関係型マーケティングは、現実にはほとんど存在しません。その意味で両者は理念型といえるものです。
しかしこうした考え方を身につけておくことは、マーケティングを戦略的に進めるのにとても役立ちます。なぜなら、マーケティングの捉え方が大きく広がるからです。
リレーションシップ・マーケティングの効果
リレーションシップ・マーケティングには、さまざまな効果があります。
ロイヤルティ
関係が深まることで、顧客のロイヤルティが高まります。長期間にわたり、安定的に買い続けてくれることが期待できます。
肯定的なクチコミ
肯定的なクチコミ(WOM: word of mouth)を発信してくれたり、周囲の人に推奨(リコメンド)を発信してくれたりします。顧客が自発的に好ましい情報を発信をしてくれるわけです。
コラボレーションとサポート
顧客との間でコラボレーション(協働)を展開したり、顧客からサポート(支援)を受けたりすることも可能となります。問題解決に力を合わせたり、あるいは新製品のアイデアや既存製品の改善点を提供してくれたりします。
リレーションシップ・マーケティングは、顧客ロイヤルティ向上だけでなく、幅広い効果が期待できるのが特徴です。
リレーションシップ・マーケティングの3つの方法
リレーションシップ・マーケティングには大きく3つの方法があります。
パーソナライズ / カスタマイズ
1つ目はパーソナライズやカスタマイズです。製品やサービスを顧客の好みや都合に合わせることで、顧客との関係は深まります。「顧客適応」(customer adaptation)ともいわれます。パーソナライズやカスタマイズを実現するには、顧客をよく理解し、一人ひとりの顧客について十分に学ぶこと(顧客学習)が大切となります。
フレキシブルな対応
2つ目はフレキシブルな対応です。状況に応じて臨機応変な対応をすることで、顧客との関係は深まります。このためには、事前に詳細な契約を交わすのでなく、柔軟で穏やかな契約を締結することになります。フレキシブルな対応は「事後的対応」ともいわれます。
フレンドシップの形成
3つ目はフレンドシップの形成です。顧客に対し人間味あふれる対応をして、友人のように感じてもらうことでも、関係は深まります。顧客に寄り添い、フレンドシップを形成するのも、リレーションシップ・マーケティングの方法の1つです。
信頼の醸成
リレーションシップ・マーケティングの成功には、信頼の醸成が不可欠です。顧客を理解するにも、フレキシブルな対応をするにも、フレンドシップを形成するにも、信頼関係は欠かせません。信頼を醸成するには、常に誠意ある対応を心がけることが大切となります。
リレーションシップ・マーケティングの活用領域
リレーションシップ・マーケティングは、営業担当者や店舗スタッフなどが、顧客と直接かかわる領域で生まれました。サービス・マーケティング、ビジネス・マーケティング(BtoBマーケティング)、チャネル・マーケティングなどです。
しかし今日では、デジタル技術の発達によって、あらゆる領域で活用可能となりました。特に最近ではAIを活用して、顧客一人ひとりと深い関係を構築しようとする動きが活発です。デジタル・マーケティングの実践でも、最も基本的な枠組みとして位置づけられています。
リレーションシップ・マーケティングについて理解を深める
リレーションシップ・マーケティングは、現代マーケティングの根幹となる考え方です。しかしその一方で、マーケティングのテキストやビジネス書では曖昧なかたちでしか解説されていません。
リレーションシップ・マーケティングについて理解を深めたい方は、『リレーションシップ・マーケティング』をお読みください。現代のマーケティングについてしっかりとした理解を得たい方、あるいは自らのマーケティング戦略を深めたい方にとって、きっと役立つはずです。
