ブランド・リレーションシップのマネジメント‐3
《顧客のブランド経験を理解する》
ブランド・リレーションシップ入門講座のマネジメント編の第3回目です。これまで第6回目では顧客基盤の分析について、第7回目には「活用」と「形成」について説明してきました。今回からは、ブランド・リレーションシップの「形成」に焦点を絞って考えていきます。ブランド・リレーションシップの形成に取り組むには、まず顧客のブランド経験を理解することが有効です。

ブランド・ヒストリーを語ってもらう
ブランド・リレーションシップは、企業から一方的に説得されたり、あるいは情報を提示されたりすることで生まれるものでなく、顧客自身のブランド経験から生まれるものです。このため、すでに自社ブランドとの間にリレーションシップを形成している顧客が過去にどのようなブランド経験をしてきたかを詳細に知ることは、ブランド・リレーションシップのマネジメントに多くの知見をもたらします。
顧客のブランド経験を知るためのインタビューでよく用いられるのが、顧客自身に自分のブランド・ヒストリーを語ってもらう方法です。自らのブランド経験を振り返り、自己とブランドの関係をストーリーとして語ってもらいます。
インタビューのポイントは、「ブランドとの関わり合い」と「そのときの状態」を組み合わせて聞くことです(星, 2016)。つまり、ブランドとどう接触したのか(どのように接し、何が生じたかなど)だけでなく、そのとき、自分はどのような状態にあったのか(心の状態、ライフ・イベント、ライフ・ステージなど)についても語ってもらいます。
3つのRを意識する
Hoshi and Yoshida(2016) は、顧客のブランド経験から豊かなストーリーを引き出すシステマチックな手法として、Recollection(回想)、Repetition(反復)、Reflection(反映)というアプローチを提唱しています。このアプローチでは、以下のような手順でインタビューを進めます。
- Recollection(回想):ブランドとの出会いから現在に至るまでを、ゆっくり時間をかけて回想してもらう
- Repetition(反復):鍵となるブランド経験について、何度も繰り返し、深く掘り下げて語ってもらう
- Reflection(反映):そのブランドは自分にとって何を意味しているのかについて、じっくりと語ってもらう
3つのプロセスを丁寧に進めることで、インタビュアーの質問に答えるのではなく、顧客自身によってブランド・ストーリーが語られることになります。
3つのプロセスを丁寧に進めることで、インタビュアーの質問に答えるのではなく、顧客自身によってブランド・ストーリーが語られることになります。
インタビューで尋ねるべきこと
インタビューでは尋ねるべきことがたくさんありますが、なかでも大切なのが「そのブランドと結びついているのは、どんな私なのか」ということと、「そのブランドは私にとってどのような存在なのか」ということです。
人にはいくつもの自己があり、それらを場面に応じて使い分けています(Aaker, 1999)。したがってブランド経験のインタビューでは、ブランドと結びついているのはどのような自己かについて、できるだけ詳細に情報を収集していくことが大切です。
またそのブランドが顧客にとってどのような存在なのかを知るには、その顧客にとってブランドはどのような役割を担っているのかを探ったり、あるいはそのブランドがなくなったらどのようなことが生じるかについて尋ねるのも効果的です。
まとめ
ブランド・レーションシップを形成するには、まず顧客のブランド経験をよく理解すべきであることを述べました。また顧客のブランド経験を知るためのインタビュー技法についても簡単に説明しました。顧客のブランド経験を理解することは、さまざまな知見をもたらします。より深掘りした内容を理解されたい方は、ぜひ拙著『ブランド・リレーションシップ』をお読みください。
参考文献
- 久保田進彦 (2024).『ブランド・リレーションシップ』有斐閣.
- 星晶子 (2016).「絆を育てるブランド経験を明らかにする定性新手法:インテージ コグニティブ・インタビュー ブランド・エクスペリエンス」(2016年9月5日インテージ・アカデミー資料).