ブランド・リレーションシップ

ブランド・リレーションシップの効果

ブランド・リレーションシップにはさまざまな効果がある。ここでは代表的な効果について説明していく。

頑健なリピート購買

ブランド・リレーションシップには、ブランドの購入傾向を強める効果がある。より正確に述べれば、頑健なリピート購買(再購買)を促進する。南カリフォルニア大学のC.W.パク教授らは、ブランドに愛着を抱いている消費者に「ニューモデルが出たら、いつも買う」「そのブランドを買うために、他ブランドを買わずに数ヶ月待つ」といった、強いリピート傾向が見られることを明らかにした。ここで重要なのは、ブランド・リレーションシップが単なるリピート購買でなく、頑健なリピート購買をもたらすことである。ブランドに心理的な結びつきを感じている顧客は、多少の困難性が伴っても離反しない。

パク教授らの研究では、このような頑健なリピート傾向が、ブランドに対する肯定的な態度(良い・好き)では高まらないことが示されている。顧客のリピートをより確実にするにはブランド自体のイメージを高めるだけでなく、ブランド・リレーションシップを高めることが重要だというわけである。

クチコミとサポート

ブランド・リレーションシップには、推奨(クチコミ)や支援(サポート)を促進する効果もある。ソーシャル・メディアのような消費者間コミュニケーション環境が充実するに伴い、多くの企業がクチコミのマネジメントに取り組んでいる。また顧客参加型の製品開発のように、企業にとって顧客のサポートが必要となる活動も増えてきた。

ブランド・リレーションシップは、これらクチコミやサポートといった行動に強い影響を及ぼす。愛着を感じているブランドであれば、消費者は手間を惜しまずクチコミを試みるからである。彼らは大好きなブランドのためなら進んで手を差し伸べる。これらはブランド自体のイメージを高めても、ほとんど生じない効果である。

いわゆる「効くクチコミ」というものは、企業が仕掛けたものではなく、消費者が自ら進んで発信したものであることが多いようである。企業の思惑が見え隠れするクチコミよりも、愛着を感じているブランドについて素直に語られたクチコミの方が受け手の心を揺さぶるのは当然だろう。

ガーディアン効果と免疫効果

否定的な情報への抵抗という効果も忘れてはならない。ブランド・リレーションシップが形成されると、否定的な情報に触れたときに対抗的な情報発信をする傾向が強まるという報告が、いくつかの研究でなされている。

たとえばインターネット上に、あるブランドについての否定的な書き込みや、悪意のある書き込みがあったとする。ブランド・リレーションシップが形成されている消費者は、これらに対して反論をしたり、火消し役を演じてくれたりする。ブランド・リレーションシップのガーディアン効果(自警団効果)といえるだろう。

ブランド・リレーションシップにはガーディアン効果だけでなく免疫効果もある。ブランドに悪評がたっても、それに影響されることが少なくなるのである。たとえば上智大学の杉谷陽子教授は、2000年代後半にトヨタ車にリコール問題が生じたとき、「高品質だ」「耐久性が高い」といった機能的評価や、「スタイリッシュだ」「かっこいい」といった憧れ感は低下したにもかかわらず、「思い入れがある」「自分に合っている」といった愛着感が低下しないことを発見した。また海外でも同様に、ブランド・リレーションシップが形成されることで、ブランドの失敗に対して寛容になることが報告されている。これらはブランド・リレーションシップによって、否定的な情報に対する免疫が形成された結果と解釈できる。

絶対的な差別化

最後に説明する効果は、きわめてユニークかつ重要なものである。消費者はあるブランドとの間にリレーションシップを形成すると、競合ブランドとの比較を拒むようになるのである。たとえばアップルの熱心なファンは、MacがWindowsと比較されるのを嫌がるそうである。彼らにとってMacは特別なものであり「Windowsと同類に見られたくない」という気持ちがあるのだろう。

これは多くの親が、自分の子どものことを特別な存在だと思い、他人の子どもと天秤にかけることを嫌がる心理とよく似ている。自分の子供のことを「同じクラスのAくんと比べて、成績では負けているけど、顔立ちの良さと、性格の良さでは勝っている。だから私はうちの子の方が好きだ」と考える親はいないだろう。ほとんどの親は自分の子供を、他の子供と比べて相対的に好むのではなく、唯一無二の存在として絶対的に好む。愛着が形成されるにしたがい、人はその対象について他と比較することなく愛情を感じるようになるのである。

ブランド・リレーションシップも同様の効果を生み出す。消費者は愛着を抱いているブランドについて、他のブランドと比べることを嫌がるようになるのである。この結果「比べられずに選ばれる」という興味深い現象が生じる。企業の立場からみれば、他ブランドと比べて違うという「相対的な差別化」ではなく、比較対象となる他ブランドが存在しない「絶対的な差別化」が達成されるわけである。

絶対的な差別化が重要なのは、他ブランドの競争行動を無力化してしまうからである。競合ブランドがいかに優れたパフォーマンスを発揮しても、消費者はそれを無視しようとする。すると、いくら競争を仕掛けても、消費者の心には何も伝わらなくなる。絶対的な差別化は「無競争の差別化」である。ブランド・リレーションシップを形成し、絶対的な差別化を達成できれば、自社ブランドを強力なバリアーで守ることができるようになるわけである。

絶対的な差別化は、戦わずして勝つ「不戦勝型の戦略」をもたらすことになる。ブランド・リレーションシップを確立することで、激しい戦いが繰り広げられるレッド・オーシャン(血の海)から、豊かで穏やかなブルー・オーシャンへと移り住むことが可能になるわけである。