消費者の気持ちに入り込む
ブランド・リレーションシップのマネジメントで、もっとも大切なのは、消費者の視点から考えることである。消費者(あるいは顧客)の視点から考えることは、マーケティングの基本である。しかしブランド・リレーションシップのマネジメントでは、その大切さが、さらに強調される。
人々は、どのようなブランドに「私らしさ」を感じ、共鳴するのだろうか。おそらく、小さな子供を育てる母親の「私らしさ」と、ビジネスで大成功した人の感じる「私らしさ」はまったく違うものだろう。私らしさが違えば、愛着や絆を感じるブランドも変わってくるはずである。誠実なブランドに親近感を抱く人もいれば、洗練されたブランドや刺激的なブランドに共鳴する人もいる。
さらに、消費者はそのブランドを自分の心の中でどのように位置づけているだろうか。親友のような存在だろうか、幼なじみだろうか、それとも頼れる相棒だろうか。消費者とブランドとの関わり方はきわめて多様である。ブランドとの関係は「愛着」や「絆」という言葉でまとめられるほど、単純なものではない。だからこそ、愛されるブランドになるには、消費者の視点から考える必要があるのである。
ブランド・リレーションシップ研究が進むにつれ、自己とブランドの結びつきには2つの側面が存在することが明らかになってきた。消費者はブランドを、自分らしさを形成したり提示したりするための小道具(props)と認識することによっても、自らの経験や感情を分かち合ってくれるパートナー(partner)と認識することによっても、リレーションシップを形成する。しかも多くの場合、これら2つの側面は複雑に混ざりあっている。ブランドは自分らしさを確認するための小道具であるとともに、大切なパートナーのように感じられたりする。こうした繊細な心理は、「リレーションシップ」のひとことで片付けることができないものだ。
ブランド・リレーションシップのマネジメントに取り組むには、消費者の気持ちになり、彼らに入り込もうという姿勢が必要である。消費者の気持ちに入り込むということは「どうしたら売れるのか」というマーケティング的視点をいったん捨て去ることであり、そうすることで、はじめて消費者とブランドとのデリケートで複雑な関係が見えてくるはずである。
ブランド・リレーションシップについて学ぶ
ブランド・リレーションシップは多くのマーケティング研究者が取り組んでいる、先端的なテーマである。このためブランド・リレーションシップについて、体系的に書かれた解説書は未だない。ここでは簡単なものとして、これまで私が書籍や雑誌に執筆したものを紹介しておく。
経営を読み解くキーワード:ブランド・リレーションシップ
『一橋ビジネスレビュー』2013年夏号(第61巻5号)所収
ブランド・リレーションシップについて、ごく簡単に整理したものである。ブランド・リレーションシップとは何かについて、できるだけ短い時間で学びたい方に最適である。

識者に聞く:ブランド・リレーションシップ
『第19回 日経BP広告賞作品集』所収
こちらもブランド・リレーションシップについてコンパクトに整理したものである。実務への展開についても少し触れている。ブランド・リレーションシップについて初めて学ぶ方におすすめである。

ブランド・リレーションシップの戦略
田中洋編『ブランド戦略全書』所収(第3章)
ブランド・リレーションシップの基本戦略について説明したものである。またブランド・リレーションシップ概念や特徴的効果についても説明している。上にあげた2冊と比べて、より充実したな内容である。

関係のマーケティングを解きほぐす
『AD STUDIES』第48巻(2014年夏)所収
リレーションシップ・マーケティングやブランド・リレーションシップといった「関係のマーケティング」について簡単に整理したものである。吉田秀雄記念事業財団の『AD STUDIES』への寄稿論文である。

自己とブランドの結びつき / 自己とブランドの結びつきの諸側面
『青山経営論集』第52巻第4号 / 第53巻第4号 所収
ブランド・リレーションシップの本質について学術的に議論したものである。ブランド・リレーションシップについて詳しく学びたい方におすすめする。はじめに「自己とブランドの結びつき」をお読みになり、つづいて「自己とブランドの結びつきの諸側面」をお読みいただきたい。

